在宅主義的マルチオタク概論

好きなものはひとつにしぼれない

人生における"のろい"が"まじない"になるマジック~Base Ball Bear『魔王』~

こんにちは。こんろんかです。

突然ですが、皆さん。

  "呪い"

って何て読みますか?

「のろい」でしょって思った皆さん、正解です!

ですが、もう一つ読み方があるんですよ。

それが

「まじない」

です!

知ってましたか?

「のろい」と「まじない」、読み方ひとつで印象がずいぶんと違いますよね。

"のろい"だとマイナスイメージですが、
"まじない"だとプラスのイメージになります。

"まじない"だと例えば、
幼いころ、怪我をしたときに言ってもらっていた
「いたいのいたいのとんでいけ~」とか、
何となく痛みが軽減されるような気がしませんでしたか?

あとは、緊張を鎮めるためにする
手に「人」と書いて飲み込むとか。

今回は、読み方を変えるだけで、まるで魔法のような変化をとげる
Base Ball Bearの楽曲『魔王』について紹介していきます。

 

 
Base Ball Bear『魔王』が収録されたアルバム『二十九歳』

 『魔王』は、2014年6月4日に発売されたアルバム『二十九歳』に収録されている楽曲です。

『二十九歳』というアルバムは、当初セルフタイトルになる予定でしたが、
Base Ball Bearと親交のあるサカナクションが、同時期にセルフタイトル『サカナクション』を発売してしまったために、『二十九歳』というタイトルになりました。
サカナクションという存在は、この曲を理解するための鍵でもあります。

セルフタイトルとは、作品名に自身のアーティスト名をつけることで、アーティストにとって重要な作品であることを意味します。
まぁ、Base Ball Bearにとっては「C」シリーズの方が、セルフタイトルの要素が強いと思いますが…。

『二十九歳』というタイトルにしたのは、発売時期に、メンバーの平均年齢が29歳だったからです。
似たようなタイトルで、『十七歳』というアルバムもあり、『十七歳』からの距離感も感じてほしいとボーカルの小出さんは語っています。

 

『魔王』の歌詞

前述したサカナクションが鍵となると記述したのには、以下の歌詞があるためです。

光射すあの丘に 旗を立てた彼のように
なりたい でもなれない
それじゃ 僕じゃないから

“旗を立てた彼”とは、サカナクションのボーカル 山口一郎さんのことだと小出さんは語っています。
メジャーシーンで、自分のやりたいことをして、世間からも評価されている山口さんのように自分もなりたい。
でも、それをすることは、自分が自分ではなくなってしまうということを意味します。

たとえ万人から評価されなくとも、自分は暗い森の中にいる魔王のような存在として、他のだれでもない自分自身として、音楽をやっていきたいという思いが込められています。

見ないことにされてた 僕の世界が 君のことをずっと待ってる
聞かないことにされてた この声が
例え枯れてしまおうが 君のために歌うよ

 

笑いものにされてた 僕の世界で 君のことをずっと待ってる
いないことにされてた 僕の呪い(のろい)が
君の傷を癒すお呪い(まじない)になりますように

 

この歌詞は、小出さんの学生時代の体験から書かれています。

中学受験をして、私立の中高一貫校に通っていた小出さん。
バスケットボール部に入部し、一度はスクール・カースト上位の仲間になります。
しかし、1年生の文化祭を機に、突如としてバスケ部員から、無視されるようになり退部。
クラスメイトからも、まるで幽霊かのように扱われるようになりました。

中高一貫のため、まるで通奏低音かのように高校でもいじめは続き、
当時の小出さんは、「俺は死なないから、みんな死ね」と思っていたそう。

そして、高校3年生の文化祭後に正式に結成されたバンド(のちのBase Ball Bear)で、
学校以外の世界の大人から評価されるようになります。

いじめられていた暗い過去(のろい)を背負った自分が作る音楽が、だれかの光となり、
そして傷を癒すもの(おまじない)になってほしい。

というのがこの曲が表現したいことだと思います。


まとめ

生きていれば、辛い過去のひとつやふたつ、誰にだってあります。
『魔王』を作った小出さんは、いじめられていた過去、すなわち「のろい」を、曲にすることで、だれかを救う「まじない」に昇華することができたのかもしれません。
Base Ball Bearの『魔王』は、そんな人生の”のろい”とも言うべき過去が、時に誰かの光となる”おまじない”になることを教えてくれる楽曲です。